酒の失敗談・身から出た錆ってやつ

働き方改革のおかげでそんなにも気兼ねすることなく「明日お休みします!」が言えるようになった柿市です。さっそく半休をいただいて平日休みとくっつけて娘の元へと向かいました。

(初めての一人暮らしで迎える誕生日は寂しいのでは?)と勝手に思う親心からです。で、押しかけて腹いっぱい焼肉をごちそうするという計画を立ててみました。ネットで検索して良さげな焼肉店に予約を入れた時、ふと思い立って要望欄にコメントを残したのです。

[当日は娘の誕生日です。大きなサプライズまでも考えていませんが、なにかちょっとだけそれらしいことがあったら嬉しいです]と。

学校帰りの娘と待合せをしてお店に着くと、思うがままに注文し、乾杯に始まっていつもど~りお酒をガブガブといただきながら肉を焼きまくってささやかな祝いの宴を楽しんでいました。御祝なので通常モードをかなりオーバーしたオーダー数だったと思います。

もともと肉は大好きです。ですが寄る年波には勝てないというか、ここ数年、牛肉(特に上等な部位)を口にすると夜中決まって夢枕に牛だか(?)肉だか(?)が立って、上下からの激しいリバースを繰り返します。牛さんの祟りでしょうか?

のっけから飛ばし気味だったので娘の方も早々に限界がやってきたようです。

時間の経過とともにお店からの(それらしいこと)を期待する自分の浅ましさに息苦しさを感じていました。書き込んだ厚かましいおねだりを願わくは見落としていて欲しい。いや、おそらく見たとしても呆れて却下されただろうことをうっすらと感じていました。

その時です。

「お誕生日おめでとうごさいまーす」
そう言って店長さんらしき方がどでかい肉を乗せたお皿を運んでこられたのです。
happy birthdayの文字がドレッシングで書き込まれています。
「えーーーーー、うそ、なんでーーーー」

 

突然のことに娘が声を裏返しています。

罰当たりな私はお願いを叶えてもらえた嬉しさの裏側で、この段階で登場したサシの入った高級牛肉(しかもかなりドデカサイズ)に凍り付いていました。不気味なサンキュー笑顔を作りながら添えられていたハサミを持つ手が震えます。

 

・・・よみがえります、あの日のことが。

ずいぶん前の話になります。

姉と母とウチの家族の6人で焼肉を食べに行った時、その店の店長さんからのサービスだというサシの入った高級牛肉が運ばれてきました。それを口にした途端、姉の様子がおかしくなり、あり得ない量のブツを体内から放出させたのです。まだ幼かった娘が、姉の哀れを「見たい、見たい」と大はしゃぎしていましたっけ。子供とは時として残酷な生き物です。

話を戻します。

運ばれてきた肉を見た瞬間「これは絶対にヤバいやつだ」と直感しました。

そして、これ、こんだけ食ったら間違いなくあの日の姉と同じことをやらかしちゃうとも思いました。
そんな私の表情を見透かした娘がささやきます。

「これだけは死んでも残すわけにはいかんぞ」と。

わかっています。わかっていますとも。身から出た錆ってやつです。

このご厚意を踏みにじったりはしません。死んでも食って帰る覚悟で黙々と焼き続けるうち、私は自分の中から湧き上がってくるおかしな笑いを制御できなくなっていました。つられて娘も思いっきり噴出しています。ラスト一切れの時点ではそろって涙交じりのヒーヒー爆笑です。

 

なんとも楽しくお腹いっぱいの誕生日の晩を娘と過ごすことが出来ました。ごちそうさまでした

帰り道、コンビニに滑り込んで「胃の中の肉の脂を洗い流さんなん」とハイボールを2缶ばかり買ったわたくしであります。