柿市こぼれ話


【お呼びじゃない女】

先日、柿市商店で働くようになって初めて出張に行きました。酒部の仕事で東京の取引先「方舟」さんと言うお店で石川県の蔵元「大日盛」さんを囲む会が開催されることになり、当社からも来て欲しいとの要請があったためです。

本来なら利き酒師である妹が行くべき仕事です。店もほとんど妹が切り盛りしていて、私はほんの手伝いに過ぎません。しかし、彼女がどうしても行けないので私が行くことになりました。先様からのお電話の折、「当社からは柿本が参ります。」と、妹が伝えると寸の間沈黙があったそうです。それを聞いて私はかなりブルーになりました。どんな小さなことも拾い上げて気に病むタイプなのです。どうせ方舟さんでは私のことパニックババアとでも呼んで舌打ちしていることだろうよと、暗く思い巡らしました。

先様としてはそうでしょう。たまたま電話で注文を受けることになっても、とにかく慣れていないのでパニックに陥りやすいのです。メモ帳がなかったり、手に取ったペンのインクが無いものばかりだったりで、口から泡を吹かんばかりの慌てぶり。しかも、片付け好きな妹は、何でもかでも片付けてしまってどこに何があるのかわかりゃしないのです。

終いには「どなたか注文を受けられる方に代わっていただけますか?」と、言われてしまう有様です。すみません、私より幾分まともな妹が居ないので、私が電話に出ております。あきらめてください。

幸い、土曜の夜の会なので社員食堂の昼飯は作っていけます。母と義妹に後を任せて行くことになりました。母が心配そうに私に聞きます。
「あんた、そんなところに着ていくドレスが有るの?」ドレスは持っていません。しいて言えば喪服ですが、それは違うでしょう。て言うか、ドレスが要るのか?
「お母さん、私は園遊会に招かれたわけじゃ無いげんよ。ドレスなんて要らんやろ。」
「でも、何か着ていかんなんやろ?」
「心配せんといて。何か着てくわ。裸じゃ行かんて。」私達の会話を聞いて朝ごはんを食べていた社員が大受けしています。さすが『お出かけ命』のわが母、ドレスとは…

それにしても、私がそのようなところへ行って何をすればよいのでしょうか?ただお客様と一緒に食事して、隣の方とでもお話すればよいのでしょうか?それとも酒の用意をしたり、お酌をしに回ればよいのでしょうか?ままよ、行ってしまえば何とかなるさ。取って食われることもあるまい。

そんなわけで、やや甘めの考えで東京まで出かけていきました。着いてみると、先様では意外なほど歓迎してくださいました。ただ、開会の挨拶だの、蔵元の紹介だの、私に課せられた仕事は想定外のもので、頭の中では巨大な防火シャッターが下りてきたときのような衝撃を受けました。まったく私の柄に合わないお仕事です。それでも今更出来ないなんてくだらない泣き言を言っている場合ではありません。見れば、蔵元の16歳の息子さんが『大日盛』のはっぴを着て「営業に来ました。」と、けなげにもスタンバっています。

自分が軽い酸欠状態のような気がしました。空気を求めて口をパクパクしている人面魚が右耳の後ろ辺りに居ます。しかも、その人面魚の顔は私です。そのときふと思いました。まだしも私でよかったと。妹ならショックでその辺りで粗相してしまうかもしれません。アイツは身内には超強気ですが、外向きにはまったくのヘナチョコなのです。コヨリで作った槍のようなものです。

それはさておき、人間やる気になれば何でも出来るものなのですね。大きな粗相もなく、何とか求められた仕事が出来たようです。もっとも先様やお客様がなんと思われたかは別ですが…

翌日、帰りの飛行機に搭乗しようとゲートを探していると、一駅前の別のビルだと言われました。慌てて引き返し、それでも間に合ったとほっとしてマッサージ椅子でマッサージをしていると「大変申し訳ありませんが都合で搭乗ゲートが変わりました。」と、アナウンス。大汗かいてゲートを通ったのは出発時刻の3分前です。

神様は私のことが嫌いなのかもしれません。もっと悪く考えれば面白がっているのかも・・・?自分のミスにしては、なんだかトラブルが多すぎるような気がするのですが…

P.S. ついさっき聞いたのですが、方舟さんから当社への出張依頼は無かったのだそうです。ただ、「来ていただければ、助かります。」程度のお話だったとか…
「なんじゃそれ!結局私はお呼びじゃ無かったってことかい?」私達姉妹の連絡の悪さときたら国宝級です。方舟さん、大日盛りさん、ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。


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