柿市こぼれ話


【柿市鳥】

ある日の柿市商店従業員食堂でのこと。

当日の汁物は若竹汁だった。当食堂では汁物は鍋のまま出され、保温トレーで温められていて、ご飯ともどもお代わりは自由である。若布は鍋に入れておくと色が悪くなるので、個人個人が好きなだけ取れるように鍋のそばに小鉢に入れて置くのがいつもなのだが、その小鉢を見て義妹が言った。
「何これ?この会社には鳥でも居るわけ?」
「ん?」言われて見てみると、確かにそこらじゅう若布が撒き散らされ、さながら小鳥がえさ箱のえさを撒き散らしたような状態だった。
「そうね、鳥が出たようね。かなりでかい鳥が。柿市鳥って言う鳥や。」
「柿市鳥?その鳥食べ方が汚いわ。何これ、信じられんわ。」
若布はステンレスのカウンターですでに乾物化し、張り付いて取れなくなっていた。なぜこういうようなことになるのかよくわからないが、当社の従業員食堂にはときどき獣が出没するらしい。

ご飯を噛まずに飲み込んでしまい、1〜2分で食事を終えてしまう「丸ノミン」。食べ終わった後相撲取りのように腹をパーンと叩く「腹ヅツミン」。しょっちゅう食いこぼしをする「ベンキチ一号二号三号」などは毎日やってくる。食べ終わったお盆の上が異常に汚い「食いチラシン」。お代わりをするのが面倒くさいとご飯を山盛りにする「テンコモリン」。まったくケダモノだらけである。そうそう、食堂に入ってくるなり「肉、肉、肉、肉・・・」と、呪文のように唱えつつおかずに目を光らす「肉ズキン」も忘れてはならない。

今日も今日とて獣が出た。本日の汁物は麩と葱の味噌汁だったのだが、気付いてみると麩だけ一個もなくなっていたのだ。本日の獣は「柿市鯉」。麩がよほどお好きらしい。

そう言うわけで、柿市商店の楽しいお食事タイムは毎日繰り返されている。

【箱男】

柿市こぼれ話の記念すべき第一回で、「伝説の男Yさん」のエピソードを紹介したのだが、そのなかに発泡スチロールの箱を集める話がある。最近気付いたのだが「箱男」はYさんだけではないらしい。

Nさんはバナナの箱を集めている。バナナの箱は適度に大きく、作りもしっかりしている。バナナの呼吸を妨げないように蓋の中央は大きく開けてある。この箱に取引先に配達する品物を入れる。一軒につき一箱というわけだ。Yさんと同じように車の荷台はバナナ箱でいっぱいだが、Yさんほどいっちゃってはいないので仕事に支障はない。会社のなかの色々な所に密かにバナナ箱がストックされている。時々他の社員におねだりされて、バナナ箱を譲ってあげている。ちょっとほほえましい。

「肉ズキン」の好きな箱はレタス箱やキャベツ箱。大きいやつが好きなようだ。Tさんはやはり発泡スチロールの箱を集めている。Uさんはけっこう頭がいいのでレタス箱をたたんで車の荷台の床に敷いてある。必要ないときはかさばらず、必要なときにはさっと出してくる。忙しいときのレタス箱の価値は高く、甲斐性のある男としてみなに尊敬されている。

誰だか知らないが5階から屋上に抜ける階段に大きな発砲の箱を山積みにしているやつがいる。そんな所誰も通らないと思っているらしいが、梅干の時期には大きな桶を抱えて通らなければならない。どうしても通れなくてその年は屋上で梅を干すことが出来なかった。見た目よりかなり気の荒いわが母は頭にきて5階から1階まで箱をけり落とした。かなり迷惑な箱男だ。

人のことばかり言っている場合ではない。昨日気付いたのだが私も箱男の一人だ。私の好きな箱はビールやジュースの空き箱だ。これをいろいろな場所での使い捨てのゴミ箱にしたり、ちょっとした距離の品物の運搬用に使っている。冷凍食品や泥つきの野菜を運ぶときなどに重宝だ。私も3〜4個はキープしてある。

以前にもう少し小振りな缶コーヒーの空き箱を酒屋の裏口にいつも置いていたことがある。その箱は「カラス撃退用」。当社の軒先に毎年ツバメが巣をかける。ところがここ数年ゴミ捨て場から締め出されたカラスが、ツバメの卵や雛を狙うようになってきた。せっかく当社を頼ってきたツバメに悲しい思いをさせるわけにはいかない。「カー」と鳴けば私が箱を振り回して出動する。「投げつけるぞ」とばかり威嚇するわけだ。その箱は振り回して走るのに丁度良い大きさ軽さだった。時々電信柱や屋根の上のカラスに投げつける。届きはしないが、カラスも呆れて飛んでいってしまう。しつこいカラスにはこちらも執念深く対応する。二町くらい先まで箱を振り回しながらカラスを追っていったこともある。さながら狂った山姥のごとくである。

多分近所の人たちは私のことを「かわいそうに、前からおかしな人だと思っていたが、とうとう本格的におかしくなったんだな。」と言っていることだろう。社員にいたっては見なかったふりをしている。朝の4時ごろからボサボサ髪で寝巻きのまま、箱を振り回して飛び出してくる、そんなオバサンが身近にいたら、嫌になってしまうのも無理はない。

箱男の前途は暗い。なぜならそんなくだらないものに執着しているからである。UさんやTさん、肉ズキンあたりはまだしも、YさんやNさんはちょっとヤバイ。私は別の意味でかなりヤバイと言えるだろう。


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