柿市こぼれ話


【背中の冷蔵庫】
 当社には地酒の小売店舗があることは前にも書いたのだが、最近ますますいろいろな蔵元の酒を置くようになってきたので、ただでさえ手狭な店がもっと手狭になってきている。
 今現在日本酒は150銘柄以上あるのだが、そのうち富山県の酒が5〜6銘柄あるばかりで、その他はすべて石川県の地酒である。この中には生酒が結構あって、冷蔵庫のスペースも足りなくなってきている。
 そこで自宅にある使っていない小さな冷蔵庫を店に持ってくることにした。自宅は店舗の一軒置いて隣の家なので、小さな冷蔵庫くらい持ってくるのはたやすいことのはずだった。ただ問題なのは、二階に置いてあるので急な階段で下ろさなければならないことだった。
 しかし、中身さえ入っていなければ冷蔵庫というものは意外に軽いものだ。試しに持ってみたら、ドアが取れてしまった。取れてしまうとかえって持ちやすいような気がした。ひとりで何とか下ろせそうだ。冷蔵庫を抱えて階段の所まで移動させた。楽勝だ。
 が、ここからがちょっと問題だ。冷蔵庫が大きすぎて狭い階段では私と冷蔵庫のスペースが取れない。そうだ、背中に担いでしまえばどうだろうか?やってみた。残念だが冷蔵庫が大きすぎて手が回せない。担いで下ろすことはひとりでは無理だ。
 いや、待てよ、ほんの十数段の階段だ、背中に乗っけてバランスをとりながら下りられるのではないだろうか?出来そうな気がした。試しに背中に乗せてバランスをとってみた。四角い冷蔵庫の放冷用の細かいパイプがいい具合に背中に引っかかってバランスがとりやすい。よし!やってやる。おふざけ半分、私は冷蔵庫を背中に乗せて階段を下り始めた。
 一段、二段、三段・・・私の背中で冷蔵庫がグラグラ揺れる。いけない!冷蔵庫ばかりではなく私までもろとも下まで落ちてしまいそうだ。クククククククッ笑いがこみ上げてきた。電気もついていない暗い階段で、背中にドギツイ黄緑色の冷蔵庫を乗せて立ち往生しながら、自分の間抜けさ加減があまりにもおかしくて、いけないと思いながらも、笑わずにはいられなかった。笑うと背中の冷蔵庫がさらにグラグラと揺れて、危険度は飛躍的にアップした。ほんとにマズイ!マズスギル。
 いまさら後戻りは不可能。下りるか、落ちるかどちらかだ。さすがに怪我はしたくなかったので、とりあえず笑うのは我慢した。冷蔵庫のゆれが幾分小さくなった。ここで予想外に冷蔵庫が重くなってきた。なんという体力の無さ!ウルトラマンでさえ3分はもつのに・・・ああ、しかし下りるしかない。一段、二段、三段・・・冷蔵庫だけではなく私の足までガクガク揺れる。あと少し、ほんの数段下り切れば誰かに助けを呼べるはず。一段下りるごとに明かりが差してきた。もうだめかと思ったが、何とか一番下まで下りることができた。
 しかし、背中にのしかかる冷蔵庫はとてつもなく重くなっていて、一番下の階段に背中を滑らせて置くだけで精一杯だった。しかも自分の体で支えていなければどうしようもない。このままでは冷蔵庫に押しつぶされそうだ。数十メートル先のうちの社員に助けを求めようとした。が……見える範囲に居たのは西村君……彼はあまりにも若い。助けを求めるにはちょっと気が引ける。何だこのおばさんはと不審な目で見られるのは明らかだった。「あっ、あっ子ちゃんた、助けて……」と、声をかけるまもなく、すばやい小走りで彼女は走り去った。すぐそこにみんな居るのに誰も黄緑色の冷蔵庫に潰されそうになっている私に気付かない。
 もうこうなったら仕方が無い。私はあえて冷蔵庫の下敷きになり、そこからホフク前進で這い出した。やっと、黄緑色から開放されて、妙な達成感があった。やった、やり遂げた。危機一髪だったが何とかなった。多少腰は痛めたようだが何とかなった。意気揚々と冷蔵庫を酒屋に運んだ。店番をしていた妹にたった今成し遂げた武勇伝を披露した。
「ダラんないけ!!」(馬鹿かお前はの金沢弁)目をひん剥いて妹が吐き捨てた。はい、ダラです。おっしゃるとおり、わたくしは柿市商店で一番のオオバカモノで〜〜〜す。チャンチャン。


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